生活協同組合コープさっぽろは北海道全域に108店舗を展開し、北海道に暮らす人々の毎日を支えている。2021年6月時点の組合員数は186万人を超え、北海道の総人口に占める割合は34%以上。コロナ禍においては、店舗での感染対策を徹底させるとともに、コープ宅配システム「トドック」を拡充させて“食のインフラ”としてのミッションを担い続けている。2021年度には供給高(事業高)が3,000億円を突破した。デジタル推進本部でインフラチームリーダーを務める若松剛志氏は次のように話す。

「成長の推進力となったのが17%近く売上を伸ばした宅配事業『トドック』です。2019年にアプリをリリースし、2020年12月にはPC・スマホから利用できる『トドックサイト』として、より便利で快適なECサイトに生まれ変わりました。コープさっぽろでは、トドックサイトを皮切りに、基幹業務系を含むすべてのシステムをAWSに移行する方針を打ち出しています」

同組合は「コープさっぽろ版DX」を標榜し、地域に欠かせないプラットフォームとして独自の進化を指向している。業務の進め方、組織内のコミュニケーション、組合員とのエンゲージメントに至るまでデジタルテクノロジーを積極的に採り入れて、コープさっぽろが持つ強みを最大限発揮させることが狙いだ。オンプレミスからAWSへの移行はその一環である。

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「デジタル推進本部の立ち上げからおよそ1年、外部ベンダーに依存していたシステム開発を内製化し、自分たちでシステムを改善しながらトドックサイトを運営していく体制を整えてきました。その過程でNew Relicを導入し、現時点では主にAPMを活用してシステムのボトルネックの特定と問題解決に役立てています」(若松氏)

デジタル推進本部 システム部 インフラチームリーダー
若松剛志氏

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New Relic APMがボトルネックと原因を可視化

「トドック」の歴史は2009年に立ち上げた通販サイト「eトドック」まで遡る。進化を重ねて2019年にモバイルアプリの「トドックアプリ」をリリース、そして2020年にはeトドックをAWS上で稼働する「トドックサイト」にリニューアルし、ユーザーの使い勝手を大きく改善させた。だが、バックエンドシステムは、基幹系サーバーやオンプレミス環境との連携などに多くの複雑さを残していたという。リファクタリングをリードするデジタル推進本部 システム部 インフラチーム エンジニアの山﨑奈緒美氏は次のように話す。

「まず本番、検証、開発環境のアカウントを分離し、フロントとバックエンドそれぞれに割り当てました。これを起点に、インフラの構成やアプリケーションコードの見直しを進めていますが、ボトルネックの発生箇所や原因の特定にNew Relic APMが威力を発揮しています。チームは、New Relicが可視化する情報を共有して問題解決の方針を確認し、手戻りなく改修を進めることができます」

New Relicは業界を代表するオブザーバビリティ(可観測性)プラットフォームであり、デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にする。アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化できる。

デジタル推進本部 システム部 インフラチーム エンジニア
山﨑奈緒美氏

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バックエンドのインフラを中心にリファクタリングは続けられているが、すでに目に見える成果も出ているという。

「毎週火曜日の朝10時から『早い者勝ち!数量限定訳あり商品』を実施しているのですが、アクセスが通常の5~10倍に達してサーバーエラーが発生する状況に悩まされていました。New Relic APMで分析したところ、特定のクエリに対するレスポンス時間が長かったり、無駄にクエリを発行しているような傾向が明らかになったのです」(山﨑氏)

山﨑氏は、New Relicの情報を指標としてアプリケーションとインフラそれぞれのエンジニアとともに検討を進めた。そして、スパイクアクセス対策としてコードを見直すとともに、それでもデータベースの負荷が下がらない場合を想定してリードレプリカを参照する仕組みを工夫した。

「システムのスケーラビリティを確保するのに、以前は『試しにリソースを2倍にしてみる』というような方法しかありませんでした。New Relicから具体的な判断材料が得られるようになったことで、試行錯誤の工数と時間も、過剰なリソースもコストも解消できています」と山﨑氏は笑顔を見せる。

「現時点ではAPMによるボトルネックの解消が中心ですが、より良いユーザー体験を支えるアプリケーションの品質管理にまでNew Relicの適用を進めたいと考えています。複数のサーバーが連携してアプリケーションを提供していますので、そうした環境を横断的に監視できるメリットは大きいですね」と若松氏も期待を示す。

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オンプレミス環境を丸ごとAWSに移行

若松氏は、インフラチームリーダーとしてシステム全体のモダナイゼーションを推進している。その手法は、長年にわたり構築・運用されてきたオンプレミス環境を丸ごとAWSに移行し、FaaS/SaaSを活用しながら順次最新化していくという大胆なものだ。「コープさっぽろ版DX」の一環として、CDO(最高デジタル責任者)である対馬慶貞氏、CIO(最高情報責任者)の長谷川秀樹氏の強力なリーダーシップのもとプロジェクトは着実に前進している。

「デジタル推進本部には、オブザーバビリティ(可観測性)の概念やそれを実現するツールに関して経験値の高いメンバーが在籍しており、New Relicの選定はチームの総意で決まりました。AWS上に展開するインフラとアプリケーション全体を統合的に監視する基盤として、私たちが求める能力を備えているとの評価です。私自身は前職で別の製品を使っていたので、New Relicを使いこなしてみたいという気持ちもありました」と若松氏は話す。

コープさっぽろの職員数は15,000名を超え、店舗や事業所・物流拠点の総数は230以上、運用するシステムは約190、サーバーは約650に及ぶ。デジタル推進本部は、従来型のシステム部門の枠を超えて、この巨大組織のデジタル変革を担う先鋭的なチームだ。AWSに精通したエキスパートエンジニアである若松氏と山﨑氏が合流したのは2020年のことである。

「トドックサイトにとどまらず、AWS上に構築した複数のシステム監視へのNew Relicの適用を進めています。また、オンプレミス環境の監視ツールのサポート終了が近づいていたため、これもNew Relicに切り替えました。既存環境はシステムそのものが肥大化・複雑化していただけでなく、監視のメトリクスが不十分で欲しい情報が得られないという課題がありました。New Relicを適用することで、システム監視の水準を大きく高めて均質化できます。同じ指標を組織内外の関係者で共有できるメリットは大きいと考えています」(若松氏)

若松氏は、230拠点以上のネットワーク機器(ルーターやスイッチ)の死活監視にもNew Relicを適用し、ダッシュボードをネットワーク保守ベンダーと共有する考えも示した。

レガシーな流通小売企業にこそDXを

コープさっぽろでは、自らのDXへの取り組みを成功・失敗を問わず、硬軟織り交ぜて赤裸々に公開している。一貫したメッセージは「レガシーな流通小売企業にこそDXを」である。そうした取り組みが広く共感を呼び、同業種を中心に様々な企業の「DX推進担当者」がコープさっぽろを訪ねてくるという。若松氏は次のように話して締めくくった。

「コープさっぽろの強みは、組合員とのパイプラインが極めて強固であり、宅配事業において『1週間前の注文+注文全体の50%程度を占める置き配』というシステムが確立していることにあります。流通小売業の中にあってコープさっぽろはユニークなポジションを占めており、デジタル技術を活用することでさらに強さを発揮できるものと考えています。New Relicが、デジタル変革の推進という私たちのミッションに欠かせない有益な情報を提示し続けてくれることを期待しています」