トラスコ中山は「プロツール」と呼ばれる機械工具、物流機器、環境安全用品等の卸売を手掛ける卸問屋である。約2,800社のメーカー・仕入先と、機械工具商やネット通販企業、ホームセンターなどの小売およそ5,500社を結び、日本のモノづくりの現場にプロツールを迅速かつ安定的に供給している。『問屋を極める、究める』を経営指針に掲げ、業界最大の在庫と業界最高の利便性を追求してきた60余年は、業界の常識を変え続けてきた歴史だ。デジタル戦略本部 情報システム部 システム管理課 課長の鎌倉貴行氏は次のように話す。

「取り扱い品目は約240万アイテム、うちロングテール商品を含む約46万アイテムを常時在庫し、ワンストップでタイムリーにお届けできることが、『トラスコならプロツールが何でも揃う』『トラスコなら最小ロットで即日届く』というお客様の評価につながっています。私たちは、プロツールに対する少量多品種・高頻度のニーズにお応えするために、物流システムと情報システムを徹底的に磨き上げてきました」

トラスコ中山の強みは、モノづくりの現場に、必要な時に、必要なモノを、必要なだけ供給できる「圧倒的な在庫数と独自の物流システム」にある。高度に自動化された国内26の物流拠点では1日28万件以上の入出荷を可能にしており、洗練されたプラネット&サテライト物流システムにより即納される。

「2020年1月にSAP S/4HANAベースの新基幹システム『PARADISE 3』を稼働させ、リアルタイムでのデータ活用を強化するとともに、仕入先様とお客様を結ぶサプライチェーン全体の更なる高速化を実現しました。ここでは、SAP S/4HANAと連携するSAP Business Technology Platform上の新サービス『POLARIO』が、サプライチェーンのデジタル化の推進に大きな役割を果たしています」(鎌倉氏)

トラスコ中山株式会社

デジタル戦略本部 情報システム部 システム管理課

課長 鎌倉 貴行 氏

鎌倉 貴行 氏

サプライチェーンの上流を支える仕入先向け業務連携ポータル

新基幹システムと同時に構築された「POLARIO」は、サプライチェーンの上流でメーカー・仕入先との接点を担うポータルであり、業務プロセスのデジタル化を推進するための戦略的な役割を担う。システム管理課 係長の上田洋栄氏は次のように説明する。

「仕入先様およそ2,800社のうち、EDIを利用できない仕入先様との受発注をFAXと人手に頼ってきましたが、POLARIOの導入により業務のデジタル化を大きく前進させることができました。現在では、およそ1,670社がPOLARIOを利用して見積や納期回答を行っており、受発注業務の効率性とスピードを大幅に向上させています」

POLARIOはSAPが提供するクラウドサービスSAP Business Technology Platform上に構築され、オンプレミスのSAP S/4HANAで稼働する新基幹システム「PARADISE 3」とリアルタイムに連携する。ERP本体をカスタマイズせず、標準性を保ちながら新サービスをクラウド上に作り込んだことがポイントだ。

トラスコ中山株式会社

デジタル戦略本部 情報システム部 システム管理課

係長 上田 洋栄 氏

THINKLET

この「POLARIO」の構築と並行して、検索から見積・発注まで行える、工場・作業現場のプロツール総合サイト「オレンジブック.Com」の機能強化も行われた。注文・見積・返品などの機能を24時間利用可能にし、多様化する顧客ニーズに応える大幅なアップデートである。

「新基幹システム『PARADISE 3』を中心に、『POLARIO』がサプライチェーンの上流を、『オレンジブック.Com』がその下流を担うことで、仕入先様とお客様を結ぶトラスコ中山のサプライチェーン全体に、デジタル化による高速化と効率化がもたらされました。残る課題は、オンプレミスとクラウドが連携するビジネスクリティカルな環境をいかに安定的に運用し、より良いシステムサービスを提供し続けるかでした」(上田氏)

POLARIOとオレンジブック.ComにNew Relicを適用

POLARIOはSAP Business Technology Platformで稼働し、オレンジブック.Comはオンプレミス環境からサービスを提供しているが、それぞれ運用監視に課題を残していたという。

「クラウド上のサービス監視は十分とは言えませんでした。POLARIO上でレスポンス悪化などの問題が発生しても、何が起こっているのか詳細を把握できず、どう対処すべきか即座に判断できないこともありました。また、オレンジブック.Comではサービス影響のある問題を未然に防ぐことができなかった経験もあります。こうした状況を打開するために採用したのがNew Relicです」(鎌倉氏)

New Relicは業界を代表するオブザーバビリティ(可観測性)プラットフォームであり、デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にする。アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。

「New Relicには、アプリケーションパフォーマンス管理(APM)によるサービス品質低下の原因分析に大きな期待がありました。従来の方法では、システムの稼働状況やリソースの使用率を監視して、何か問題があったときに通報される仕組みでしたが、問題発生を知ってから対応を始めていたのではサービスへの影響は避けられません。New Relicなら、素早く原因を分析・特定してサービス影響を最小化したり、問題が顕在化する前に対処できると考えたのです」(鎌倉氏)

問題発生の予防と原因特定のスピードアップに威力を発揮

SAP Business Technology Platform上に構築された「POLARIO」にはNew Relic APMとBrowserが導入され、コンテナアプリケーションの挙動を詳細まで把握するとともに、ユーザーのサービス体験の計測を可能にした。

「レスポンスタイムやセッション数など、サイトの状況がリアルタイムで見えるようになったことで、サービス影響が発生する前に手を打てるようになりました。また、クラウドとオンプレミス間の連携処理に遅延が発生した際に、その原因を速やかに特定できるようになったことも大きいですね」(上田氏)

一方、オンプレミスで稼働する「オレンジブック.Com」には、New Relic APM、Browser、Logs、Infrastructureが適用された。複数のソフトウェアモジュールが連携する複雑なシステムで、未知の問題発生に際して原因の切り分けから復旧までの時間を最短にするための体制が整えられたことがポイントだ。

「アプリケーションプロセスのどこの処理に時間を要していて、システム全体のパフォーマンスを低下させているのかが一目瞭然です。従来のリソース監視で見えなかったものがNew Relicで見えるようになり、以前なら一晩を要していた原因の特定も15分ほどで可能になりました」と上田氏は評価する。

「システム負荷が高い=ユーザー体験が良くない、ということを定量的に把握できるメリットはNew Relicならではです。ユーザー体験が悪化していることを把握したら、即座にシステム上のボトルネックを特定して解決の手を打つ。さらには、プロアクティブに手を打ってユーザー影響を予防する、というように私たちの行動も変わっていくはずです」と鎌倉氏は期待を示す。

ビジネス継続に欠かせないシステムの安定稼働とサービス品質向上

トラスコ中山は、独自の経営戦略が認められ2018年にポーター賞を受賞。2020年には、デジタルトランスフォーメーションにおける先進的な取り組みが評価されて「DXグランプリ2020」を受賞している。

「2020年8月に『デジタル戦略本部』を新設し、全社レベルでDXを推進していく方針を明確化しました。PARADISE 3は、トラスコ中山のサプライチェーンを支える基幹システムであるとともに、DX推進のための中核システムでもあります。SoR(System of Record)領域をオンプレミスでがっちりと運用しつつ、外部との接続やサービス連携を担うSoE(System of Engagement)領域はクラウドを積極的に使っていくことになるでしょう」(鎌倉氏)

仕入先の業務改革にも寄与するPOLARIOをはじめ、オレンジブック.Comとも連携する見積自動化システムなどは、まさにSoE領域に位置づけられる。鎌倉氏は次のように話した。

「私たちのサプライチェーンシステムは、仕入先様とお客様を結び、巨大なエコシステムを形成するビジネスの大動脈です。ビジネス継続に欠かせないシステム全体の安定稼働とシステムサービスの品質向上のために、New Relicを積極的に活用していきたいと思っています。New Relicが、『問屋を極める、究める』という私たちのミッションに欠かせない存在となってくれることを期待します」

トラスコ中山株式会社 デジタル戦略本部 情報システム部 システム管理課