カーエレクトロニクス分野で培ってきた技術とデータを駆使して、パイオニアが新たなビジネス領域の開拓に挑んでいる。事業会社のひとつモビリティサービスカンパニー(MSC)が手掛ける、クラウド型運行管理サービス「ビークルアシスト」はその急先鋒である。パイオニアが強みを持つカーナビゲーションシステムを車両情報端末として利用し、パブリッククラウド上に構築したサービス基盤から、営業車両・業務用車両などの運行管理・運行支援を提供する。パイオニアMSC データソリューション事業統括グループ 開発部 サービス開発課長の安達一文氏は次のように紹介する。

「2015年に開始した『ビークルアシスト』は、データを活用した新しいサービスとして垂直立ち上げに成功したビジネスのひとつです。パイオニアには、カーナビというハードウェアに加え、長きにわたるカーナビ事業を通じて蓄積してきた膨大なデータ、クラウド上に構築したサービス基盤という、車両運行管理サービスの根幹を担う大きな資産があります。ビークルアシストは2019年度に契約数を前年比数倍にまで拡大しており、さらに成長を加速させています」

パイオニアがカンパニー制に移行したのは2019年10月。ハードウェア、データ、サービス基盤という3つのエンジンが、デジタルサービスを手掛けるパイオニアMSCの強みであり、顧客に向けた価値創造のベースとなっている。

パイオニア株式会社

モビリティサービスカンパニー

データソリューション事業統括グループ 開発部 サービス開発課長

安達 一文 氏

安達一文 氏

障害対応に関わるプロセス全体を高速化

ビークルアシストの急成長の背景には、サービス品質の向上、サービス機能の拡充と、これを可能にするパイオニアMSC自身の変革へのチャレンジがあった。データソリューション事業統括グループ 開発部の三橋宗明氏は次のように話す。

「ビジネス成長に伴うサービス基盤の大規模化と複雑化が、様々な問題を生み出していました。私たちを最も悩ませていたのが、障害発生時の原因特定の難しさです。開発担当、オフショア開発チーム、運用担当、外部ベンダーなど複数の関係者がそれぞれ調査を進めても、なかなか根本原因に辿り着かないジレンマを抱えていました。ビークルアシストは迅速なサービス復旧を品質基準として掲げており、これを遵守するために24時間365日の監視体制を続けざるを得ませんでした」

こうした状況を一変させたのが、パイオニアMSC が2019年初頭に導入したNew Relicだった。New Relicは業界を代表するオブザーバビリティ(可観測性)プラットフォームであり、デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にする。アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する。New Relic のアプリケーションパフォーマンス管理(APM)機能は、複雑に連携し合うビークルアシストのクラウド環境を可視化し、障害原因の特定に大きな威力を発揮した。

「New Relic によりシステム監視の常識ががらりと変わりました。問題点が明示されたダッシュボードを関係者全員で共有することで、誰がどんな対応をすべきか一目瞭然になったのです。それまでは開発側と運用側で見解や主張の相違が起こりがちでしたが、ダッシュボードに客観的な事実が示されることでこの問題も解消されました。New Relicは、チームのコミュニケーション、初動対応、方針の立案、問題解決までのプロセス全体を劇的に高速化しました」(三橋氏)

パイオニア株式会社

モビリティサービスカンパニー

データソリューション事業統括グループ 開発部 サービス開発課 

三橋 宗明 氏

三橋宗明氏

サービス品質の向上、サービス機能の拡充を可能にしたオブザーバビリティ

「New Relic のオブザーバビリティ(可観測性)を使いこなすことで波及効果は広範に及んだ」と話す三橋氏は、チーム内の意識と行動が変わっていったことを実感したという。変化はビジネスの成果に直結した。

「New Relicにより、3日かかっていた問題解決を最短で1時間以内に対処できるようになり、運用側はサービス基盤全体を見通した最適化に力を注ぐことができるようになりました。インフラやプロセスの視点からボトルネックと原因を特定し、問題をひとつひとつ解決していくことでサービス基盤全体の処理能力と安定性を向上させることに成功したのです。その結果、ビークルアシストのサービス品質は大きく向上し、お客様の利用体験の改善につながりました」(三橋氏)

2019年度、ビークルアシストは契約数を数倍にも増やしたが、解約率の低減もこれに寄与しているという。一方でインフラの拡張は予測の数分の一程度に抑えられており、これが収益率の向上に大きく貢献することになった。

「効果は開発側にも及びます。サービス機能のリリースサイクルを高め、それまで年に2-3回にとどまっていたアップデートを2019年度では15回にまで増やすことができました」と安達氏も評価する。

ビークルアシストは、2019年度におよそ20〜25%の機能拡張に相当する新規開発を実施した。開発効率、スピードは確実にアップしている。

DevOps を生み出すコミュニケーションハブとしての役割

New Relicの本格的な活用を始めて1年、安達氏・三橋氏はその成果を次のように捉えている。

コミュニケーション:ダッシュボードがハブとなって開発・運用・ベンダー間での効果的な情報共有を実現

問題発生時の対応:システムを俯瞰的かつ詳細に把握し、迅速な問題箇所と原因の特定、影響範囲の判断が容易に

プロアクティブ運用:精度の高い情報で中長期の傾向を把握し、問題が顕在化する前に対策可能に

DevOpsの体現:開発側と運用側がダッシュボードで情報を正確に共有しチームの一体感を形成

「これらの成果のすべてを支えているのが、New Relicのオブザーバビリティ(可観測性)です。どのサービス機能の利用が増えているか、性能は劣化していないか、どのリソースが逼迫しそうか、いつまでに手を打てばいいかが即座にわかります」(三橋氏)

安達氏・三橋氏らは、アプリケーションパフォーマンス監視、ユーザー端末の登録・接続状況、30種を超えるサービス監視の情報などをNew Relicに集約するなど、ダッシュボードをチームが使いやすいようカスタマイズを進めた。

「ビークルアシストの関係者一同が共有するダッシュボードは、『コミュニケーションハブ』としてチームをひとつにしました。導入当初、どこを見ればいいかわからないと言っていたメンバーも、ダッシュボードを日々の業務で活用していく過程で習熟度を高め、今ではNew Relicに精通したエンジニアとして自信を深めています。問題解決のためのアクションのスピードと精度は確実に高まりました」(三橋氏)

ビークルアシストのビジネスの成功に向けて、開発と運用が協力しながらサービスを磨き上げるプロセスは、理想的なDevOpsをまさに体現している。

限られたリソースで最大の価値創造を

サービス開発チームの変革に手応えを感じた安達氏・三橋氏らは、『限られたリソースで最大の価値創造を』というスローガンを新たに掲げた。「障害を収束させるために現場が疲弊していた時期も確かにあった」と振り返りながら安達氏は次のように話す。

「現在は、障害発生の原因を事前に潰していくことが可能になっています。そうして生まれた時間で、レポート作成の自動化など運用業務の更なる効率化に取り組んできました。さらに、効率化で生まれたリソースをビジネスの価値創造に振り向けていくポジティブなループができつつあります。1年で25%もの機能拡張を行うことなど以前は考えられませんでしたし、チームを増員することなくこれを達成できたことも驚きです」

New Relicのオブザーバビリティ(可観測性)は、ビークルアシストのサービス基盤を健全で強靭なインフラに変えつつある。それは、デジタルビジネスを推進するパイオニアMSCの成長戦略をしっかりと支えていくものだ。パイオニアMSCでは、ビークルアシストをはじめとするサブスクリプション型のビジネスを、新事業の柱としてさらに拡大していく方針を打ち出している。三橋氏は次のように話す。

「私たち自身が従来型の運用監視チームを脱却して、ビークルアシストのサービスの信頼性を担い、更なるビジネス成長に寄与するSRE(Site Reliability Engineering)チームに変わりつつあると感じています。私たちの変革とパイオニアMSCのビジネス成長を加速させるツールとして、New Relicの活用をさらに進めていく考えです」

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