New Relicの選定理由と成果
- SaaSに舵を切って新サービス開発やサービス改善をタイムリーに行う
- 複数のクラウドやオンプレミスに分散したシステムを一元的にモニタリング
- 複数のシステムの組み合わせにおいて、トラブルシューティングが大幅に高速化
- 開発と運用が同じダッシュボードを見ることでコミュニケーションコストが低減
利用機能
- New Relic APM
- New Relic Browser
- New Relic Dashboard
- New Relic Infrastructure
- New Relic Alerts & AI
弥生株式会社(以下、弥生) は「中小企業、個人事業主、起業家の事業を支える社会的基盤(インフラ)として日本の発展に能動的に貢献すること」をミッションとし、お客さまの事業の立ち上げと、発展の過程で生まれるあらゆるニーズにお応えする「事業コンシェルジュ」を目指して、「弥生シリーズ」や「事業支援サービス」を開発・提供・サポートしている。
弥生の代名詞といえるのが、主に中小企業や個人事業主に向けたデスクトップ業務ソフトで23年連続売上実績No.1を誇る「弥生23シリーズ」である。
デスクトップアプリケーションに加え、クラウド型のオンラインサービスも提供している。2012年から弥生シリーズのオンライン版である「弥生 オンライン」をリリースし、個人事業主向けクラウド会計利用シェアNo.1を獲得。弥生シリーズから利用できる自動仕訳サービス「YAYOI SMART CONNECT」なども提供している。近年ではさらにSaaSに舵を切って、クラウド独自のサービスを続々と開発しリリースしている。
こうした業務支援サービスと同時に、起業や資金調達、M&A(事業承継)といった事業支援サービスも提供する。現在では、業務支援サービスと事業支援サービスをあわせて、事業者のあらゆるステップを支える「事業コンシェルジュ」をその活動のキーワードとしている。
「ここ1年、証憑管理サービスや、事業支援サービスなど、新しいサービスを次々と開発しています」と、開発本部CTOの佐々木淳志氏は弥生の事業について語る。「パッケージ製品のイメージが強いのですが、スモールビジネスのお客様が便利になるような新しいクラウドサービスをどんどん開発し、提供していく会社として活動しています」(佐々木氏)
こうしたサービスを開発し運用していくにあたり、弥生ではオブザーバビリティ(可観測性)プラットフォームNew Relicを各サービスに導入した。
SaaSやマイクロサービスに舵を切りNew Relicを導入
弥生ではSaaSに舵を切り、新サービスを開発する中で、この2年は複雑化してきたシステムを見直している。マイクロサービス化やDevOpsなどの手法を採用し、特に新サービスではパブリッククラウドを利用するなど、新しいシステム構成に移行している。
そのプラットフォームは、サービスごとに複数のパブリッククラウドで動いているほか、従来のサービスではオンプレミスで動いているものも多く、さまざまなプラットフォームの混成となっている。さまざまなサービスがあり、マイクロサービスアーキテクチャやマルチプラットフォームの構成で動き、開発手法や技術も多様化する中で、それらのサービスの状況を一箇所で見られるツールが必要とされていた。
「たとえば、お客様が『このサービスが落ちている』と話されるときに、実はそのサービス自体は動いていて、そこから呼び出しているサービスが落ちているということもあります。さまざまなシステムを一気通貫で見られるものが必要とされていました」と佐々木氏は言う。
New Relicを導入する前から、「YAYOI SMART CONNECT」ではすでにNew Relicの無償版を利用していた。「New Relicは著名で評判が高かったので入れてみたところ、やはり便利だったので利用が定着しました」と、開発本部 次世代プロダクト開発 テクニカルリーダーの牛尾哲朗氏は振り返る。「特にNew Relicの『分散トレーシング』は大きなメリットがあり、入れる前と比べて障害の特定時間が段違いに早くなりました」
牛尾氏は、YAYOI SMART CONNECTのほか、領収書・請求書・納品書・見積書などの証憑をクラウド上で保存・管理する「証憑管理サービス(ベータ版)」のテックリードだ。ほかにも開発中の新サービスのテックリードも務めており、新サービスの共通処理のテックリードを兼務する立場にある。
この社内での先行採用事例があったこともあり、また新サービスの多くをAWSで構築していることからAWS X-rayなどとも比較検討した。その結果、さまざまなサービスを一元的に見ることができ、UIなどの使い勝手の良さ、手厚いサポートなどから、弥生で全社的にNew Relic を採用することになった。
ちょうどその導入について検討をしている2021年3月に、佐々木氏がCTOとして弥生に入社した。佐々木氏は、New Relicをさまざまなサービスに横断的に導入し、活用を促すために、キーパーソンとなるメンバーを集め、組織横断の仮想チーム「New Relic TFC(Technical Field Community)」を立ち上げた。このTFCがハブとなり、社内勉強会なども企画してさまざまなNew Relicの情報発信を行っている。他の社員が気軽に質問しやすいように、 Slackのチャンネルなども運営している。
「これからNew Relic を導入して推進して行きたい。そのために社内でNew Relicの情報蓄積・発信する拠点が欲しいと思っていたときに、サービス・部署横断の技術コミュニティの第1号としてNew Relic TFCを組織しました。これから、ほかのTFCも作っていきたいと考えています」(佐々木氏)
充実したサポートにより、着実に使いこなしを深める
現在、特に新規サービスではほぼすべてにNew Relicが活用されている。また、「弥生会計 オンライン」や、「やよいの青色申告 オンライン」などの既存システムにも順次New Relicの投入をおこなっているところだ。
「New Relicの導入はそれほど難しくなく、特にAWS上での利用は簡単でした。ただし、そこから集めたデータをどのように使うかはいろいろ試行錯誤しました」と、先行してNew Relicを利用し、TFCの中心メンバーの一人となった前述の牛尾氏は語る。
やはりTFCの中心メンバーである開発本部 システム開発部 エンジニアの水尻裕人氏も、導入では苦労しなかったが、運用面に関わるアラートの条件設定が大変だったと語る。水尻氏はもともとクラウド見積・納品・請求書サービスを提供する株式会社Misocaの社員で、2016年に買収されて弥生に加わった。クラウド請求管理サービMisocaでは、以前は別のツールを組み合わせてモニタリングしていたが、New Relicを導入するということで、それを見直してNew Relicに一本化した。「どういうアラートを設定すればいいかで悩みました。時間をかけて調整して、今は落ちついたと思います」(水尻氏)
こうした問題に遭遇したときに、New Relicの技術サポートにノウハウも含めていろいろ相談して助けられたと口々に言う。
New RelicのようなSaaSのプロダクトは、導入の初速は順調だが、使いこなしのところで停滞してしまい、使用状況が落ち込むことも多い。New Relicが導入から現在まで活用できているのは、TFCのような活動と合わせて、CSM (Customer Success Manager)やその他の技術サポートの存在も大きいと牛尾氏は語る。
「すぐに的確な答えが返ってきて、製品を使いこなすうえで非常に参考になりました。例えば、遅いトランザクションの一部が可視化されなかった時に、その理由について質問したところ、すぐに回答がありました。これにより、New Relic を確認する際の前提知識や使いこなしの幅が広がりました」(牛尾氏)
同じくTFCの中心メンバーである開発本部 情報システム部 テクニカルリーダーの伊藤太亮氏も、New Relicのサポートは「大手ベンダーに比べても遜色ないものでした」と語る。
伊藤氏は、現在オンプレミスで動くECサイトのようなシステムの管理や、オンラインサービスのバックエンドの管理をしつつ、インフラ管理としていくつかのAWSアカウントやWAF(Web Application Firewall)なども管理している。そうした中で、システムのEOL(End of Life)対応の一環としてNew Relicの新規導入の活動を行っている。
トラブルシューティングが大幅に高速化
佐々木氏はNew Relicを導入した効果として、「マイクロサービスでは可観測性が重要になります。ちょうど弥生でマイクロサービスを使った開発を始めたころのタイミングで導入できてよかった」と語る。前述したように、SaaSに舵を切り、新サービスを開発するときにNew Relicを導入したため、初期段階からその効果を感じたということだ。「今でも大きな効果が出ています。導入が進めばさらに効果が出てくると思います。これから売上などさらにいろいろなことが見えてくるのではないかと思います」と期待を口にする。
マイクロサービスに限らず、トラブルシューティングにもNew Relicが活躍している。例として牛尾氏は、YAYOI SMART CONNECTには先行してNew Relicを入れていたが、呼び出す先のシステムにはまだ入れていなかった頃を紹介した。
「当時は、適切な通信ができないという障害が起きたときには、呼び出し先のログを見てリクエストが届いているか調べたり、途中のWAFを調べたりと、時間がかかっていました。呼び出し先にもNew Relicを入れた後は、分散トレーシング機能を使うことで、トラブルシューティングが本当に高速化しました」(牛尾氏)
今は、問題が起きたときに、最初にNew Relicを確認して状況を把握する習慣がチームでもできていると言う。
また、データベースにパフォーマンス問題があるときのトラブルシューティングにも、New Relic APM (Application Performance Monitoring)が有用だと牛尾氏は言う。「New Relicがない場合には細かくログをとって調べる必要があります。しかし調査対象は本番環境でないと意味ないのですが、本番環境では気軽にログ取得の仕組みを入れられません。また、DBアクセスでクエリが遅くて接続に時間がかかっているような場合でも、どのクエリが遅いのか、また同じようなクエリでも条件が付いているようなものの特定は、New Relicでないと難しい場合があります。」
New Relic APMは、Webアプリケーションのレスポンスタイム、スループット、エラー率、トランザクションなどを可視化するとともに、ユーザー体験に影響するコードやコード間の依存関係をリアルタイムで特定できる。
DevOps内のコミュニケーションが促進され、共に顧客視点のサービス提供へ
弥生のチーム体制の変化にもNew Relicが合っていた。弥生ではAWSの本格採用に伴い、DevOpsで所掌範囲を見直した。「開発チームの業務がインフラに寄ってきたところに、New Relicにより運用チームだけでなく開発チームもインフラ監視ができるようになりました。しかも、これまでサービスごとにそれぞれ見る必要があったのが、1箇所で見られるようになりました」と伊藤氏は言う。佐々木氏も「開発と運用が同じダッシュボードを見て会話できることで、両者のコミュニケーションコストが下りました」と語る。
このように弥生は、パッケージソフトだけでなくクラウドサービスを拡大し、AWSやDevOps、マイクロサービスといった手法を導入して、短いサイクルでサービスを改善できる方向に向かっている。「パッケージソフトの印象が強いかもしれませんが、自社サービス開発に興味のあるエンジニアにぜひ参加していただきたいと思っています」(佐々木氏)
今後について、佐々木氏は次のように結んだ。
「まだNew Relicを入れていないシステムにも導入して、サービス間の関係などすべてを見られるようにしたいです。それがベースラインと考えています。それによって、今まで検証や調査にかかっていた時間やコストを、お客様に価値を提供する開発にまわすことができます。その結果、弥生のユーザー様が増えたり、お客様の業務が便利になったりという世界を狙っています」