概要
今日、小売業界はエネルギーコストの急速な上昇、高まるインフレ率、サプライチェーンの分断を受けて、新たなマクロ経済の課題に直面しています。利幅の縮小という脅威が迫るなか、小売業者は、顧客エクスペリエンスを犠牲にすることなく望みうる最良のビジネス価値を確保するため、コスト削減と戦略的投資に注力しています。
オムニチャネルは必須ではあるものの、小売企業は異なるソースにまたがるデータを可視化できていないため、すべてのタッチポイントにおける顧客、製品、注文などの一連のカスタマージャーニーの監視が難しくなっています。サードパーティのツールやサービスーオンサイトや店舗内(POSシステム、キオスク、ビデオカメラなど)、オンライン(支払処理サービスなどのウェブおよびモバイルアプリ)、配送(外部流通ロジスティクス、フルフィルメントサービスAPI)などに頼るものの、ほとんど、または全くアクセスできないことが多く、小売戦略においてテレメトリーデータを収集することは簡単ではありません。このようなブラインドスポットがあるために、データに基づいて利益に影響しうる決断を行うことが難しくなっています。
小売企業が、オンラインストアを常に利用可能な状態にし、顧客の関心を惹きつけるためには、複雑なテクノロジースタック全体において、ソフトウェアを完全に可視化できるオブザーバビリティツールに投資する必要があります。オブザーバビリティツールはデータを収集、可視化し、その情報を活用して組織が自社のITシステムの状態を把握できるようにするだけでなく、問題を即座に特定し、すばやく解決します。
本レポートでは、小売/消費者業界におけるオブザーバビリティの導入とビジネス価値に着目しました。データと考察は「2023オブザーバビリティ予測」の調査より、173件の回答者から得られたインサイトに基づいています。
システム停止の頻度とダウンタイム
小売/消費者業界の組織は、ビジネスインパクトの大きいシステム停止の発生頻度が他より高く、全業界平均の32%に対し、37%が週1回以上発生しているという結果が出ています。これは、小売/消費者業界の組織は、全業界で3番目にシステム停止の頻度が高いことを意味します。
多くの小売企業は、取引に関するログデータしか受信していないため、問題が発生した後でエラーを発見します。そのため、ウェブサイトやモバイルアプリケーションの障害を解決するまでのダウンタイムが長くなります。
ダウンタイムの合計は、システム停止の平均検出時間(MTTD)と平均復旧時間(MTTR)を足して算出されます。半数以上(55%)の小売/消費者業界の回答者が、ビジネスインパクトの大きいシステム停止を検知するのに30分以上、21%が60分以上を要すると回答しています。およそ5分の3(61%)がその解決に30分以上、28%が60分以上を要すると回答しています。上述のシステム停止の頻度を考慮すると、小売/消費者業界では、かなりのダウンタイムが起きていることになります。
しかし、43%は、オブザーバビリティソリューションを導入した結果、MTTRがある程度改善したと回答しています。
ビジネスに影響を与えるシステム停止の解決に、30分以上を要する
システム停止に伴うコスト
回答者の3分の1近く(31%)が、重要なビジネスアプリケーションのシステム停止に伴うコストはダウンタイム1時間あたり50万ドル以上と試算しています。ほぼ4分の1(23%)は、自社組織における同コストは1時間あたり100万ドル以上と推定しています。
また、小売/消費者業界の組織は、年間のシステム停止に伴うコストの中央値が995万ドルであると回答しており、これは全業種における年間のシステム停止に伴うコストの775万ドルより大幅に高く、他の業界と比較すると全体で第5位でした。
このリスクは高くつきます。小売企業のウェブサイトがセールなどの大量取引日に30分間停止すれば、何百万ドルもの損失が発生し、顧客のブランド認知にマイナスの影響を与える恐れがあります。そこで、オブザーバビリティが役立ちます。
小売業界におけるオブザーバビリティ導入を促進するトレンド
小売/消費者業界において、オブザーバビリティのニーズを促進する戦略やトレンドとして上位に挙がったのは、セキュリティ、ガバナンス、リスク、コンプライアンスへのさらなる注力(43%)、ERPやCRMシステムなどのビジネスアプリケーションのワークフローへの統合(38%)でした。顧客体験マネジメントとIoT(モノのインターネット)技術の導入が同率で3位(36%)でした。
小売/消費者業界では、IoT技術がオブザーバビリティを促進するとの回答が他業界よりも多く、33%で第7位でした。IoTは、小売業において在庫追跡や店舗内の店員管理など複数の用途を担うことができます。また、アプリケーションとワークロードのコンテナ化(全体の28%に比べて34%)、サーバレスコンピューティングの導入(全体の27%に比べて 29%)がオブザーバビリティのニーズを促進するとの回答がより多く見られました。
顧客体験マネジメント(CEM)重視の高まりがオブザーバビリティのニーズを促進していると回答
導入済みのオブザーバビリティ機能
消費活動の数十億ドルがデジタル経由で行われる中、小売業界にとってアップタイムと信頼性の向上はかつてなく重要なものとなっています。小売企業は、これまで以上に、デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)戦略を強化し、シームレスなオムニチャネルでのカスタマージャーニーの構築に注力しています。
デジタルエクスペリエンス監視(DEM)は、DCXを円滑に進めるための方法であり、それゆえに小売/消費者業界では重要な注力分野となっています。パフォーマンスと信頼性の追跡と最適化を行い、オンラインでのベストな顧客体験を提供します。DEMは、ブラウザ監視とモバイル監視を含むリアルユーザー監視(RUM)と、外形監視を組み合わせたものです。
小売/消費者業界では、モバイル管理(全体の41%に比べて43%)と外形監視(全体の23%に比べて25%)の導入率がやや高い結果となりました。ブラウザ監視(全体の55%に比べて51%)はやや低くなっています。
その他の重要な機能では、3分の2(66%)がネットワーク監視を導入済みと回答しており、この業界ではもっとも多く導入されている機能となっています。アラートが2番目に多く導入されており(62%)、次いでセキュリティ監視(59%)とダッシュボード(58%)でした。これらの各機能は、セキュリティ監視を除き、他の全業界と比較して小売/消費者業界で多く導入されています。
小売業界における監視ツール数と優先順位
小売企業は、さまざまなサードパーティサービスを利用しているため、特殊なツールに依存している場合が多々あります。実際、小売/消費者業界の組織は、本調査で対象となった17のオブザーバビリティ機能について、複数の監視ツールを使用している割合が平均よりも高い傾向にありました。3分の2以上(69%)が、4つ以上のオブザーバビリティツールを使用していました(全体は63%)。また、23%が8つ以上のツールを使用していました。
単一のツールを使用いると回答した小売/消費者業界の割合は、昨年よりわずかに減り、4%から3%へと減少しました。ただし、平均のツール数はほぼ1つ分減り、2022年では平均6ツールだったのが、2023年には5ツールとなりました。
このデータから、小売/消費者業界の組織が、ビジネスのさまざまな側面を理解し、コストの高いシステム停止を回避するためにツールの切り替えにより多くの時間とコストを費やしていることが分かります。
「組織のテレメトリーデータ(メトリクス、イベント、ログ、トレース)がどのように統合されているか」との質問には、31%がより統合されている、32%がよりサイロ化されている、35%が統合とサイロ化がおよそ半々である(すべての業種のなかで最多)と回答しました。
さらに、小売/消費者業界の組織のITチームは、1つ以上の監視ツールを通じて最初にソフトウェアやシステムの中断を検知することがもっとも多く(73%)、4分の1以上(27%)がシステム停止を手動によるチェック/検査や苦情、インシデントチケットによって検知していると回答しました。
一方で、単一の統合型プラットフォームを希望する回答者が多数となりました(46%)。また42%が、オブザーバビリティから最大の価値を得るために、今後1年間でツールを統合する予定だと回答しています。
小売/消費者業界では、4つ以上のオブザーバビリティツールを切り替えて使用
小売業界におけるオブザーバビリティの支出
小売/消費者業界の組織は、他の業種よりもオブザーバビリティへの支出が多い傾向にあり、ほぼ半数(49%)が年間50万ドル以上を、31%が100万ドル以上をオブザーバビリティに費やしている、と回答しています。年間のオブザーバビリティ支出が10万ドル以下である、との回答はわずか8%でした。
オブザーバビリティのビジネス価値
さらに、小売/消費者業界の回答者に、オブザーバビリティはどのような点で業務改善に役立つかについて尋ねました。IT意思決定者(ITDM)の上位2件の回答は、ビジネス戦略の推進(39%)と技術KPIの達成(37%)でした。実務担当者の上位2つの回答は、生産性を向上させて問題をより迅速に解決する(50%)と、複雑で分散した技術スタックの管理において当て推量の作業を減らす(36%)でした。
オブザーバビリティにより達成されるビジネス成果に関しては、小売/消費者業界のおよそ半数(47%)が、オブザーバビリティは顧客行動への理解を深めて収益維持率を向上させると回答し、これはその他のすべての業種よりもきわめて多く、全体と比べて38%高くなりました。加えて、3分の1以上が、オブザーバビリティは開発者の作業時間をより高価値なものへと移行させる(全体の35%に比べて41%)、ソフトウェアスタックに関する判断におけるチーム間の協力体制を強化する(全体の46%に比べて40%)、収益を創出するユースケースを構築す(全体の26%に比べて36%)、サービスの中断とビジネスリスクを低減する(全体の33%に比べて34%)と回答しました。
また小売/消費者業界の回答者は、オブザーバビリティにより得られる主なメリットは、運用効率の向上(40%)、アップタイムと信頼性の向上(34%)、セキュリティ脆弱性の管理(30%)、リアルユーザー体験の向上(26%)であると回答しています。
自社組織がオブザーバビリティへの年間投資から得られる価値を尋ねたところ、57%が50万ドル以上、43%が年間で100万ドル以上と回答しました。5分の1(21%)が、年間500万ドル以上の価値が得られていると推定しています。小売/消費者業界の組織がオブザーバビリティから得る価値は、平均よりもやや高く、エネルギー/ユーティリティ以外のすべての業種より高い結果となりました。
年間支出と年間で得られる価値の見積もりに基づくと、小売/消費者業界の組織は年間投資収益率(ROI)の中央値として投資の2倍の価値を得ていることになります。
ROIにさらにポジティブなインパクトを与える要因はいくつかあります。以下は、そのような組織に見られる特徴です。
- 本レポートで定義するところの 「フルスタックオブザーバビリティを実現している」組織の回答者は、実現していない回答者(100%)に比べて年間ROIの中央値が高い(114%)
- 本レポートで定義するところの「成熟したオブザーバビリティを実践している」組織の回答者は、成熟度の低い回答者(100%)に比べて年間ROIの中央値が高い(250%)
- 現在5つ以上の性能をデプロイしている組織の回答者は、1〜4つをデプロイしている組織(0%)に比べて年間ROIの中央値が高い(114%)
- 現在5つ以上のオブザーバビリティの実践の特性を備えている組織の回答者は、1〜4つを備えている組織(100%)に比べて年間ROIの中央値が高い(114%)
これらの結果より、小売/消費者業界の組織は少なくとも2倍のROIを得ており、より多くの技術スタックを監視している組織や、より成熟したオブザーバビリティを実践している組織では、ROIはさらに高くなることが強く示唆されています。
顧客行動への理解を深めることにより、収益維持率が向上すると回答
フルスタックオブザーバビリティを阻む課題
小売/消費者業界の組織において、フルスタックオブザーバビリティ実現を阻む障壁の第1位は、価格が高すぎること(28%)、次いで監視ツールが多すぎること(25%)でした。
オブザーバビリティソリューションがない場合に組織に起こりうる、もっとも重大なビジネスの結果は何かと尋ねたところ、34%がオペレーションの労力が増えることによるオペレーションコストの増加、22%がダウンタイム増加による収益損失、16%が不満足な顧客体験による信頼性の低下と回答しました。
加えて、小売/消費者業界が昨年経験した、オブザーバビリティベンダーの価格設定と請求に関する問題の上位3位は、ピーク使用量に基づく支払い(39%)、請求に大きく影響するデータ量の急速な増加(35%)、複数のSKU向けの再三のコスト試算と再契約(33%)でした。
小売業界におけるオブザーバビリティの未来
小売/消費者業界の組織は、今後1〜3年間に積極的なオブザーバビリティ導入計画を立てています。2026年半ばまでに、大多数がアラート(98%)を、次いでネットワーク監視とセキュリティ監視(97%)を導入する予定であると回答しています。
デジタルエクスペリエンス監視(DEM)にも関心が集まっています。半数以上(53%)が、今後1〜3年間で外形監視を、42%がモバイル監視を、39%がブラウザ監視を導入する予定と回答しています。これらの結果は、2026年半ばまでに、すでに導入済みの企業と合わせると 90%がブラウザ監視を導入し、85%がモバイル監視を導入し、79%が外形監視を導入する予定であることを示しています。
オブザーバビリティ支出から最大の価値を得るため、次年度以降、49%が既存のオブザーバビリティツールを最大限活用する方法についてのトレーニングを計画し、42%がツール統合を計画していると回答しています。
まとめ
小売業界の企業は、変化する消費者の期待への素早い対応やカスタマー・リテンション、DX観点での競争優位性の維持(特にブラックフライデー、サイバーウィークなど、購買行動が増える休暇シーズン)、経済的および地理的環境への対応、レジリエンスの維持といった課題に頻繁に直面しています。
小売業界におけるオブザーバビリティの現状のインサイトでは、eコマース業界は頻繁なシステム停止を経験していることが明らかになっています。エンジニアリングチームは、自社ビジネスのさまざまな側面を理解し、コストのかかるシステム停止や顧客体験の悪化を招く問題を解決するために、ツールの切り替えに多大な時間とお金を費やしています。また、調査結果より、小売/消費者業界の組織が監視ツールの統合を始めていることも明らかになりました。今後数年間でより多くの機能を導入することへの強い関心も見られ、これらの組織では、ポイントごとのソリューションからエンドツーエンドの可視性を提供する、より堅牢なプラットフォームへと移行する兆しが見られます。
次のステップ
New Relicは、厳しい逆風が吹くマクロ経済の状況下においても、小売組織がDCXを改善してオムニチャネルでのオブザーバビリティを実現できるよう支援するため、独自のポジションを築いています。
小売組織は、New Relicのコアウェブバイタル(Core Web Vitals)のクイックスタート(ダッシュボードとアラート機能に含まれる、ビルド済みのオープンソースインテグレーション)を使用すれば、New Relicのブラウザ監視エージェントデータでECサイトなどのCore Web Vitalsを監視し、スコアを改善できます。
New Relicのオブザーバビリティプラットフォームで監視ツールを統合することで、小売組織は自社の技術スタックと購買体験のあらゆるステージを可視化できます。また、顧客、製品、サービスパスを単一のビジネスジャーニーに統合し、ビジネスメトリクスに対する財務的なインパクトを定量化できる業界唯一のビジネスオブザーバビリティアプリケーションであるNew RelicのPathpointも使用できます。例えば、ウェブサイトが停止すると、Pathpointは稼働停止が発生したことを示すだけでなく、そのダウンタイム1分ごとに失われる潜在的収益も示します。
サービスレベル管理やDEM(ブラウザ監視、モバイル監視、外形監視)などのNew Relicの機能により、小売組織とそのITチームは、顧客の購入前に問題をプロアクティブに検知、解決し、最終的にすべての小売チャネルにおいて最適化されたユーザーエクスペリエンスを提供します。これにより、ブラックフライデーやサイバーウィーク、休暇シーズンの買い物といった繁忙期に合わせて簡単に規模を拡張し、顧客は商品を購入できるようになります。
New Relicについてご覧いただき、カスタマイズされた詳細なデモをご利用ください。お客様の技術的課題に対する解決策やヒントが見つかります。
本レポートについて
本レポート内のすべてのデータは、2023年3月から4月に「2023 オブザーバビリティ予測」レポートのために実施された調査より得られたものです。同種の研究において唯一の、生データをオープンソースとした調査です。「2023 オブザーバビリティ予測」の調査結果はこちらからご覧いただけます。
小売/消費者業界の回答者は「2023 オブザーバビリティ予測」レポートの調査対象者の10%にあたる173名です。
ETRは、関連する専門性に基づき調査対象者を選定しました。ETRは、回答者のサンプルサイズを獲得するのに、彼らが拠点とする国と組織でのロールタイプ(実務担当者およびITDM)にもとづき、割当法と呼ばれる非確率サンプリングタイプを実施しました。地理的分配には、15の主要国をターゲットとしました。
本レポート内で提示されるすべてのドルは米国ドル(USD)表記です。
定義
本レポートで使用されている定義をご覧ください。
New Relicについて
New Relicは、オブザーバビリティのリーダーとして、優れたソフトウェアのプランニング、構築、デプロイ、実行に対するデータ駆動型のアプローチでエンジニアを支援しています。New Relicは、メトリクス、イベント、ログ、トレースからなる全テレメトリーが集約された唯一の統合データプラットフォームを、強力なフルスタック分析ツールと組み合わせて提供し、意見ではなくデータに基づくエンジニアのベストパフォーマンスを可能にします。
直感的かつ予測可能な、業界初の従量課金制の価格設定にもとづき提供されるNew Relicは、計画サイクルタイム、変更失敗率、リリース頻度、MTTRの改善を促し、エンジニアにさらなる費用対効果をもたらします。これにより、世界をリードする大企業や成長著しいスタートアップ企業のアップタイムと信頼性、運用効率の向上を助け、イノベーションと成長を加速させる優れたカスタマーエクスペリエンスの創出を支援します。
ETRについて
Enterprise Technology Research(ETR)は、対象とするITDMコミュニティから得た専有データを活用し、投資計画や業界トレンドに関するアクション可能なインサイトを提供するテクノロジー市場のリサーチファームです。2010年以来、ETRは1つの目標に向かって着実に実績を重ねています。すなわち、企業リサーチにおいて、不完全でバイアスのかかった、統計的に有意ではないデータから形成されることの多い意見の必要性を排除することです。
ETRの扱うITDMコミュニティは、業界で最高クラスの顧客/評価者の視点を提供できる独自のポジションを占めています。このコミュニティから得た専有データとインサイトは、機関投資家やテクノロジー企業、ITDMが、拡張する市場における複雑な企業テクノロジーの展望を概観する上で、大きな役割を果たしています。