利用用途
モビリティAIプラットフォーム「Piomatix」、クラウド型運行管理サービス「ビークルアシスト」をはじめとするSaaS基盤の安定化、観測データに基づくプロアクティブかつ中長期的な改善、継続的なサービス品質の向上にNew Relicを活用
New Relicの選定理由と成果
- 開発・運用、企画、顧客サポートなどの関係部門でダッシュボードを共有しコミュニケーションを円滑化
- サービスとシステムをリアルタイムで可視化し、レポート作成に要していた数時間の工数をゼロに
- オブザーバビリティを活用した継続的な改善活動により、サービス基盤に起因する重大障害(*1)をゼロに
- SLI/SLOやCore Web Vitalsを活用する顧客視点でのサービス改善に着手
利用機能
- New Relic APM
- New Relic Synthetics
- New Relic Infrastructure
- New Relic Browser
- New Relic Logs
- New Relic Alert
- New Relic Service Level Management
- New Relic Dashboards
パイオニア株式会社が「SaaS Technology Center(STC)」を開設して1年半――カーエレクトロニクス企業として名を馳せてきた同社が、SaaSビジネスへの取り組みをさらに加速させている。STCは、SaaSビジネスを支える技術・システム開発を内製化するための戦略組織として2021年8月に編成された。2023年4月にはSaaSサービスを提供するだけではなく、コネクテッドテクノロジー(IoTやスマートデバイス)とSaaSテクノロジー(クラウドベースのソフトウェアサービス)を組み合わせて、異なる技術領域を横断的に取り扱うテクノロジーセンターを目指すべく、組織の名称を「Cross Technology Center(CTC)」に改名した。独自のモビリティAIプラットフォーム「Piomatix」の開発を成功させ、これを応用した「会話するドライビングパートナー NP1」は音声コミュニケーションが可能な多機能デバイスとして人気を博している。
Cross Technology Center サービス開発部 SREグループ グループマネージャーの三橋宗明氏は次のように話す。
「CTCは、『モノ×コト』を掲げてプロダクトとサービスを融合させ、モビリティ領域における課題解決と新しいお客様価値の創造に取り組んでいます。社内外からユニークな人材を集結し、最先端テクノロジーの活用、アジャイル開発、柔軟なチーム編成など、従来の枠にとらわれないチャレンジを次々と実践してきました。これらは、『ものづくり企業からSaaSソリューション企業へ』という私たち自身の変革への挑戦そのものです」
パイオニアが2015年にサービス開始した車載デバイスとクラウドが連携するサービスモデル「ビークルアシスト」は、優れたSaaSを選出するアワード(*2)でNo.1に選出されるなどクラウド型運行管理サービスとして高い支持を獲得している。
「ビークルアシストは、パイオニアが強みを持つカーナビゲーションシステムを車両情報端末として利用し、パブリッククラウド上に構築したサービス基盤から、営業車両・業務用車両などの運行管理・運行支援を行うサービスです。お客様のニーズを捉えてサービス機能を拡充させるとともに、システムの信頼性とサービス品質の向上に継続的に取り組んできたことが、アワードでの高い評価に結びついたものと考えています」(三橋氏)
三橋氏は、2018年のサービス立ち上げ時からビークルアシストの運用に携わってきた。ビジネス成長とともにシステム増強を繰り返してきたが、2018年頃から様々な課題が顕在化してきたという。その課題解決に一役買ったのがオブザーバビリティプラットフォームNew Relicだった。
複雑に連携し合うクラウド環境全体を可視化
New Relicは業界を代表するオブザーバビリティプラットフォームであり、デジタルサービスにおけるあらゆる重要指標の「観測」を可能にする。アプリケーション、インフラ、ユーザー体験の観測を通して、障害やサービスレベルの低下、潜在的な問題・ボトルネックを可視化する機能は業界随一との評価を得ている。
三橋氏らを最も悩ませていたのは、障害発生時の原因特定の難しさだった。ビークルアシストが、複数のパブリッククラウドを連携させてサービスを提供していることも状況を複雑化させていた。サービス影響のある問題が発生したとき、アプリケーション開発チームと運用チームが懸命に調査を進めても、なかなか根本原因に辿り着けずアクションを決められないジレンマに陥っていたという。
「2019年に導入したNew Relic APM(Application Performance Monitoring)は、複雑に連携し合うビークルアシストのクラウド環境全体を可視化し、問題の検知と原因の特定に威力を発揮してくれました。原因個所が示されたダッシュボードを開発チームと運用チームで共有することで、即座に役割分担とアクションを決めて問題解決のプロセスを実行できるようになったことも大きな成果です」と三橋氏は振り返る。
New Relic APMは、Webアプリケーションのレスポンスタイム、スループット、エラー率、トランザクションなどを可視化するとともに、ユーザー体験に影響するコードやコード間の依存関係をリアルタイムで特定できる。
「障害対応時間の短縮とともに、エンジニアの対応工数を目に見えて削減できるようになりました。また、ボトルネックの発生個所が一目瞭然になるため、単純なリソース増強ではなくプロセスやコードの見直しで対応できるケースも増えました。New Relicは、システムの肥大化防止とコスト抑制にも貢献してくれたわけです」(三橋氏)
トレンド分析に基づくプロアクティブ運用の実現
2021年に入り、ビークルアシストのサービス基盤とアプリケーションのモダナイゼーションへの取り組みが本格化した。SREチームは、これと歩調を合わせてNew Relicの活用を新しい段階へと推し進めた。「プロアクティブ運用」へのチャレンジである。Cross Technology Center サービス開発部 SREチームの山口裕司氏は次のように話す。
「New Relicの導入により、目の前の問題解決は大幅なスピード化が図られました。次のステージでは、インフラリソース、デバイスごとのアクセス、アプリケーションパフォーマンスなどを継続的に観測し、日々の運用をより能動的に考えながらシステムの安定化とサービス品質の向上を図ることを目指しました」
SREチームでは、APMをはじめ、Synthetics(外形監視)、Infrastructure(インフラリソース監視)、Browser(ブラウザー監視)を中心に、Logs(ログ収集と分析)やService Level Management(SLI/SLO管理)など広範にNew Relicを活用している。
「具体的には、直近の1週間および3か月間を対象に、CPU使用率やサービスの処理性能値の推移、接続端末数やリクエスト数のトレンドなどをSREチーム内で分析し、ユーザーサービスに影響が出るような問題が顕在化する前にコード改修やリソース増強といった手を打ってきました。その結果、2022年度の1年間で、ビークルアシストのサービス基盤における重大障害ゼロ(*1) を達成することができました」(山口氏)
New Relicで観測されたメトリクスはダッシュボードに統合され、過去にインシデントが発生した箇所に対する現状報告とともに、日次のミーティングで共有される。
「傾向分析によって、問題が発生してからでなく小さな問題の予兆を事前に見つけ出すことができます。事前の観測および分析(オブザーバビリティ)によって、問題が顕在化する前に対策を行ったシステム改善は年30回を超えています。さらに、起きうる障害が「わかる」ようにしておくことで、障害が発生してしまった際でも迅速かつ冷静に対処できるようになったことが非常に重要です。インシデント対応に要する工数・時間がゼロになり、SREチームのメンバーは重要な業務に注力できるようになりました」と三橋氏は評価する。
ダッシュボードが洗練され活用が進む過程で、開発・運用、企画、顧客サポートなどの4部門以上にわたる関係部門とのコミュニケーションも円滑化されたという。
「New Relicでは『サービスとシステムの今』をリアルタイムで可視化できるため、客観的かつ定量的な情報を元により建設的な議論が可能になりました。関係するそれぞれのチームでレポート作成に要していた工数と時間をゼロにできたことも見逃せない効果です」(三橋氏)
SREチームのミッションを支える中核ツールとして
ビークルアシストのサービス基盤はAWSへの統合が段階的に進められており、バックエンドシステムはRustベースのモダンなコンテナアプリケーションに生まれ変わる計画だ。山口氏は、サービス基盤の安定化・高信頼化への取り組みを、よりエンドユーザーの体験を重視したものに進化させていく考えを示す。
「新基盤への移行に合わせて、サービスレベル指標(SLI)とサービスレベル目標(SLO)の運用を開始する計画です。すでに、New RelicのService Level Management(SLM)を利用して試験的にSLOの測定・監視を始めており、インフラリソースの最適化を模索しています。これと並行して、Googleが提唱するCore Web Vitalsを利用したコンテンツの表示時間(LCP)、ページ操作の応答性(FID)、ページ表示の安定性(CLS)の評価を開始しており、Webサイトの健全性を客観的に把握しながらSLI/SLOの精査に役立てたいと考えています」(山口氏)
さらに、Infrastructure as Codeによるインフラ構築の自動化や、開発チームと連携したDevOpsへの取り組みなど、SREチームが取り組んでいるテーマは多い。
「SREチームには様々なバックグラウンドを持つエンジニアが集結しました。それぞれがSREとしてのスキルを身につけることで多機能なエンジニアに成長することができるはずです。SREチームがやるべきことは山積していますが、New Relicのようなテクノロジーを上手に活用することで目標に近づけると確信しています」と三橋氏は話す。
New Relicは、SREチームのミッションを支える中核ツールとして、また、Piomatixとビークルアシストに代表されるSaaSビジネスに携わるスタッフ間・部門間のコミュニケーションツールとして欠かせない存在となっている。「New Relicの活用方法の標準化を進め、複数のSaaSサービスに対して、複数のSRE間で柔軟にスイッチできるようにしたい」と話しつつ、三橋氏は次のように結んだ。
「New Relicは、システムとサービスをリアルタイムで可視化し、問題の原因特定と解決を容易にし、24時間365日休むことなくトレンドを分析してくれます。これだけでエンジニア数人分の働きに相当していると実感しています。また、New Relicを使いこなすことで、SREチームのメンバーがシステムの信頼性を高めるための知識を獲得し、技術力を磨くことにつながっています。New Relicの技術チームには、これからも私たちのSaaSビジネスを支える継続的なサポートを期待しています」
(*1) 「ビークルアシスト」サービス基盤に起因するような障害
(*2) スマートキャンプ株式会社が行う優れたSaaSを表彰するイベント「BOXIL SaaS AWARD Winter 2022」の車両管理システム部門において、「サービスの安定性No.1」「営業担当の印象No.1」「サポートの品質No.1」に選出 https://jpn.pioneer/ja/support/oshirase_etc/mobility-service/info221206.php
こちらも併せてご覧ください(New Relicご導入から1年後の事例)
・パイオニア株式会社|モビリティサービスを進化させる DevOps チームへ、限られたリソースで最大の価値創造を目指す